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教育資金贈与の非課税規定 2年延長
2013年に導入されて2021年3月末が期限であった教育資金贈与の非課税規定の2年延長されている。
この制度は、30歳未満の子や孫に教育資金として一括贈与した場合、子や孫一人当たり1500万円まで非課税とするものである。
これまでは贈与者である祖父母が贈与した直後に亡くなっても非課税のまま所得移転が可能であったため、亡くなる直前で贈与することにより相続財産から除外させることが可能であった。
2021年の税制改正により4月以降からは、亡くなる3年以内に贈与した場合には相続財産から除外できないこととなったため、税理士としては顧客に対して、間違った節税助言を行わないように留意が必要だ。
ところで、この教育資金贈与の非課税制度はそもそも必要な制度であろうか。
給料.comによると、大手企業225社の平均給与2018年は、上値が三菱ケミカルで1738万円(47.4歳)、下値がクレディセゾン518万円(39.5歳)である。
https://kyuuryou.com/w227.html
子育て世代の40代でおよそ1000万円の給与収入があれば、日本国内で上位といって間違いないであろう。ところが、この上位の収入でも、子供に対して上位の教育環境を与えることができないのがこの国の実態だ。
1000万の給与収入から税金と社会保険を引いた手取りは700万円くらいとなる。そこから、都内での生活に必要となる住宅ローンの返済200万、生活費が300万かかるとすると、自由に使えるお金は200万円だ。
そして、私立中学校の学費は100万から200万円が相場であり、塾代は年間100万円程度は必要となり、この段階ですでに年間収支は赤字となる。
日本の上位数パーセントの水準である大手企業225社にお勤めの場合ですら、この余力のない資金繰りにならざるを得ないし、実感として共感できる資金繰りだと思う。
もっといえば、子どもが2人、3人いると、もう自らの給与収入だけでは子供に高い水準の教育を施すことはあきらめざるを得ないのが今の日本の実態だ。非常に残念だが、このことが研究者の減少、官僚の能力低下、ひいては国力の低下につながっているのだと思う。
中国の一人っ子政策は人権を無視した政策であったが、所得税の税負担がほとんどないことも奏功し、結果として子供の教育に資金を集中投入するが可能となり、有能な人材を輩出して国力を成長させる原動力となった。
日本政府は、教育資金贈与の非課税制度と住宅資金贈与の非課税制度によって、戦後以降に団塊の世代が蓄えた富を孫の世代へ移転することを促進する政策を実施した。
その一方で、現役世代が負担する税は、2000年以降増え続けているため、今の税制度では現役世代に富は蓄積されることはないため、教育格差は広がる一方となる。
富の世代間移転に伴う不均衡は、教育格差がなければ世代単位で健全に是正される機会があるが、教育資金贈与の非課税制度で教育格差を助長する現在の税制度は、知識層の固定化につながり、イノベーションが阻害され将来にわたってこの国を弱体化していくこととなる。
世界のこれまでの教育と経済発展の歴史をみても、国が成長する20年から40年前には、優秀な人材が教育を受けれる環境を政府が意図して制度設計しているように思えるが、今の日本の現状はどうだろうか。
高齢者、子育て世代、若者の世代を問わず、教育と研究に税金を投入することに反対票を投じる有権者は少ないはずだ。税の制度設計での教育助成が政府に期待できないのであれば、クラウドファウンディングによって民間で教育格差是正を行う動きがでてくることに期待したい。