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事業承継税制について
平成30(2018)年4月より施行された事業承継税制により、先代が保有する自社株式を後継者が無税で承継できるようになりました。
事業承継税制は、もともと自社株の承継に係る相続税、贈与税の負担が日本の中小企業の事業承継の阻害要因となっていたために導入された税制です。
今回の税制改正前から導入はされていましたが、承継できる自社株式は2/3持分までという限度制限があったり、納税猶予の限度額が80%までであったため、無税で承継できるというわけではありませんでした。
また、従業員の雇用要件として、現状の8割を将来にわたって維持する必要があったため、中小企業の経営環境を考えると、将来に大きな納税リスクを残す非常に使い勝手の悪い制度でした。
今回の税制改正では、不評であった上記の要件が5年間の時限立法措置により撤廃されたため、5年以内に一定の書類を都道府県知事に提出することで、無税で事業承継できることとなったものです。
ただし、無税といっても実際は納税が猶予されているだけであり、後継者が自社株を売却したり、M&Aや組織再編があると、その時点で納税猶予は解除され、「本税+利子税(数十年分)」を支払うこととなります。
つまり、この制度は後継者が亡くなるまで、つまり将来40―50年に渡って、後継者を事業に縛りつける制度となります。
(ただし、事業が悪化した場合には、一定の要件のもと納税免除措置あり)
手続き面でも、制約が多く、納税猶予後、最初の5年は毎年、都道府県知事に事業報告書等を提出し、それ以降も3年ごとに都道府県知事に事業報告書等を提出しなければ、納税猶予が解除され、「本税+利子税(数十年分)」を支払うこととなります。
その手続きを40-50年に渡って期限内提出を行う必要がありますので、相当な書類管理体制が求められます。
(税理士事務所が委任を受けている場合、将来に渡って相当な損害賠償リスクを抱えることになります。)
この事業承継制度について考えていると、昭和時代の農地の納税猶予を思い出しました。
バブルで土地の価格が高騰し、農地の承継のための相続税、贈与税が払えないために農地の納税猶予制度ができたとき、多くの方が農地の納税猶予を利用しました。
その後、農地を承継した後継者の多くは、納税猶予の状態を維持する為、昭和、平成、そして次の元号の時代まで農地に束縛される人生になってしまいました。
5年、10年先の予測までなら、税理士としてアドバイスできることもあるかもしれませんが、将来40-50年先のことまで考えると、うかつに利用し、国に束縛されたまま中小企業を経営することは、後継者(ご子息)の人生にとって必ずしも良いとはいえません。
新聞や、週刊誌で自社株が無税で事業承継できるというメリット面ばかり報道されているので、ノーリスクであると勘違いしている中小企業の経営者が多くいらっしゃいます。
それにしても、農地の納税猶予のときは、農林水産省、今回の納税猶予は経済産業省ですが、縦割りの発想ではなく、日本全体をみて政策を立案してほしいと思います。
くれぐれも事業承継税制の適用に当たっては、貴社のことをよく知っている顧問税理士とよく相談して、申請するかどうか判断することをお勧めします。
事業承継についてご相談のある方は、御茶ノ水(神田小川町)の大向税務会計事務所までお問い合わせください。