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カルロス・ゴーン氏の源泉所得税について
平成30(2018)年11月19日、カルロス・ゴーン氏が50億円を私的に流用していたが、有価証券報告書に記載する役員報酬については固定報酬部分のみを記載し、私的に流用したとされる50億円部分の経済的利益については記載していなかった、と日産自動車が発表しました。そのことで、金融証券取引法の違反容疑で東京地検特捜部に逮捕されたとのことです。
粉飾決算などの金融商品取引法違反というのはよく聞きますが、経済的利益を報酬として記載しなかったというケースでの逮捕は聞いたことがありません。
経済的利益と役員賞与という論点は、これまでは、会計というよりも税法の分野で着目されていた論点です。
税法の視点から言えば、役員報酬や給与に対する源泉税を計算する際に、経済的利益(フリンジ・ベネフィット)を考慮しないといけないとされています。社宅の利用、食費補助、厚生旅行などの経済的利益は、原則として給与であるとする考えです。
今回のケースだと、国外の社宅利用などもありますので、国外源泉の可能性もありますが、そこは無視して計算すると、
源泉税の過少申告額 : 50億円(10億円×5年分)×税率(46%)=23億円
不納付加算税: 23億円 × 10%=2.3億円
となります。
日産自動車が自主修正申告すれば 不納付加算税は5%になりますが、東京地検に資料を持っていかれており、かつ、取締役決議なども必要になるでしょうから、自主修正として決議するまでには時間がかかることを考えれば、東京国税局が源泉の調査手続きをそこまで待ってくれるとは思えないので、やはり10% となるのでしょう。
それにしても、先日の200億円のタックスヘイブン課税案件といい、課税する側の立場からみても、東京国税局内に選任の調査官50人くらいアサインしないと回せない仕事量です。本来であれば、監査法人が報酬をもらってやる仕事領域なのですが、報酬をもらっても適切な仕事ができないことが明らかになってしまいました。
東京地検と東京国税局は今後、監査法人の適正意見を信用しないところから始めなければならないすると、公務員の人員を割いて監査法人の仕事領域までを補完しないといけない日本の現状は、その税金を納める国民としては残念に思います。日本の監査制度が形骸化しており、期待される監査機能を発揮できないのであれば、制度改革が必要となりますし、監査を行った監査法人のミスということであれば、ペナルティが必要なのかと思います。本事件は、監査制度の今後とフリンジベネフィット課税という観点からも興味深い事件ですので、詳細が明らかになり次第、随時コメントします。